これで良かったんだろうかという疑問

2012.01.14

三十五歳のTさんは、電子関連の開発設計分野で、現場の第一線で活躍してきたエンジニアである。実家のある埼玉に、奥さんと小学生の娘と三人で暮らしていた。通勤先は、自宅から自転車で十分の近所にあり、職住近接を実現した快適な生活を送っていた。Tさんがこの安住の地にたどり着くまでには、かなり長い年数を必要としていた。以前のTさんはいわゆる転勤族だった。全国規模で工場を展開している企業で働いていた頃、優秀なTさんのキャリアは、どの工場でもひっぱりだこだった。

[参考サイト]
技術営業に関連する求人情報
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長くて三年、短かければ半年というタームで転勤を余儀なくされたTさん一家は、全国各地を渡り歩く生活を強いられていた。Tさんとしてみれば、常に最新の技術に触れられるので、この生活に異存はなかったのだが、辛いのは家族である。特に小さな娘は転校する度にわあわあと哭き騒ぎ、家族そろってどんよりと落ち込むことになるのである。子煩悩なTさんにとっては、何よりも辛い瞬間であった。そんな事情もあって、Tさんが「転勤のないこと」を条件に実家に近い中堅メーカーへの転職を決めたのは、今から一年前のことだった。転校しなくても良くなった娘は喜び、家族と共に過ごす時間も増え、Tさんにとっては幸せな一年間が過ぎた。しかし、Tさんの心の中には、常に「これで良かったんだろうか……」という疑問がつきまとった。確かに家族は喜んでいる。が、エンジニアとしての技量は、おそらくこのままでは深まることはない。悶々とした日常を送るTさんは、家族には内緒で再び転職情報を収集することにした。





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